従軍慰安婦非難決議案759号と121号

2007年、米下院の日本軍慰安婦決議案採択を牽引したレイン・エバンズ前下院議員(民主党)が、故郷のイリノイ州の療養院で5日、死亡した。享年63才。

エバンズ氏は、1999年に日本軍の慰安婦強制動員を米下院議事録に初めて残し、2000年から決議案採択を提案してきた。慰安婦被害者の米議会証言を進め、2006年には韓国を訪問した。

2006年にパーキンソン病が悪化し、辞任する直前、決議案759号を発議した。エバンズの長年の友人である共和党のヘンリー・ハイド委員長(2007年死去)が、同法案を常任委である外交委員会に上程し、通過させた。法案は本会議を通過できなかったが、翌年、同党のマイク・ホンダ議員が類似の内容の決議案121号を発議し、常任委と本会議で通過させた。

知韓派だったエバンズ氏は1982年に当選し、24年間下院議員を務め、南北離散家族や韓国系ハーフの人権のために尽力した。




従軍慰安婦非難決議案759号と121号

テーマ:従軍慰安婦関連
マイク・ホンダ氏が2007年1月に提出した決議案121号に似た決議案が2006年4月にも出されている(決議案759号)が、これは可決されていない様子。
大筋は似ているのだが、違う点もあります。例えば以下の点。事実を説明する部分です。

(決議案759号2006年)
Whereas the Government of Japan, during its colonial occupation of Asia and the Pacific Islands from the 1930s through the duration of World War II, organized the subjugation and kidnapping, for the sole purpose of sexual servitude, of young women, who became known to the world as `comfort women';
Whereas the `comfort women' tragedy was one of the largest cases of human trafficking in the 20th century;
Whereas the enslavement of comfort women was officially commissioned and orchestrated by the Government of Japan to include gang rape, forced abortions, sexual violence, human trafficking, and numerous other crimes against humanity;
Whereas the comfort women included girls as young as 13 years of age and women separated from their own children;
Whereas the comfort women were either abducted from their homes or lured into sexual servitude under false pretenses;
Whereas many comfort women were eventually killed or driven to commit suicide when the hostilities ceased;
Whereas the use of `comfort women' is considered a current as well as past human rights issue;
Whereas the shame connected to their ordeal caused many comfort women to conceal it and caused many others to come forward about their experiences only in recent years;
Whereas historians conclude that as many as 200,000 women were enslaved, but very few of them survive today;
Whereas the Government of Japan did not fully disclose these war crimes during negotiations for reparations with its former enemies and occupied countries;
Whereas some textbooks used in Japanese schools minimize the `comfort women' tragedy and other atrocities, and distort the Japanese role in war crimes during World War II;

(決議案121号2007年)
Whereas the Government of Japan, during its colonial and wartime occupation of Asia and the Pacific Islands from the 1930s through the duration of World War II, officially commissioned the acquisition of young women for the sole purpose of sexual servitude to its Imperial Armed Forces, who became known to the world as ianfu or `comfort women';
Whereas the `comfort women' system of forced military prostitution by the Government of Japan, considered unprecedented in its cruelty and magnitude, included gang rape, forced abortions, humiliation, and sexual violence resulting in mutilation, death, or eventual suicide in one of the largest cases of human trafficking in the 20th century;
Whereas some new textbooks used in Japanese schools seek to downplay the `comfort women' tragedy and other Japanese war crimes during World War II;

パッと見でわかると思いますが、随分とコンパクトになってます。121号にはその分、日本政府の慰安婦問題に対する取り組み(河野談話やアジア女性基金など)などが記載されています。つまり、日本の努力についても評価しているわけですね。ちゃんと読み比べると、一方的に日本が非難されている、とはとても言えません(少なくとも759号に比べてはるかに日本に配慮している)。
では、事実関係の部分を訳してみましょう。

(決議案759号2006年scopedog訳)
日本政府は、1930年代から第二次大戦までのアジア・太平洋を植民地化・占領していた期間に、いわゆる「従軍慰安婦」にするためだけに、女性を組織的に強制したり誘拐したりした。
「従軍慰安婦」は20世紀最大の人身売買事件の一つである。
従軍慰安婦の奴隷的状況は、日本政府によって公式な要望と調整によるものであり、それには集団レイプ、強制堕胎、性暴力、人身売買などの数多くの人道に反する犯罪を含んでいる。
従軍慰安婦にはわずか13歳の少女や子供と引き離された女性もいた。
従軍慰安婦は、家から強制連行されたかあるいは騙されて性奴隷にされた。
多くの従軍慰安婦は、戦争で死んだり、戦後自殺を選んだ。
「従軍慰安婦」の使用は、過去の人権問題であり現在の問題でもある。
彼女らの苦難は恥とみなされたため、多くの従軍慰安婦は過去を隠してきたが、最近になってその経験を語り始めるようになった。
歴史家によると、最大20万人の女性が性奴隷にされ、現在はほとんど生き残っていない。
日本政府はかつての敵国と占領国との間の賠償金を巡る交渉の際、これらの戦争犯罪について充分に明らかにしたわけではない。
日本の学校で使われているいくつかの教科書は、「従軍慰安婦」の悲劇や他の残虐行為を小さく取り扱い、第二次大戦での日本の戦争犯罪についての認識を歪めている。
(ここまで)

どうでしょうかね?ネトウヨの人がムキーとなるのは当然でしょうけど、従軍慰安婦問題で日本に非がある、と考えている人でも多少疑問に思うのではないでしょうか?完全に虚偽とは言えないでしょうが、かなり日本にとって厳しい表現ではあります。「組織的に慰安婦になることを強制したとか誘拐した(subjugation and kidnapping)」とかは、さすがに「組織的」である証拠は見つかってないよ、と言いたくなるかもしれません(まあ、白馬事件で処罰しなかったことは組織的な黙認、と言えなくもないでしょうが)。
これに対して、決議案121号では、以下のようになってます。

(決議案121号2007年scopedog訳)
日本政府は、1930年代から第二次大戦までのアジア・太平洋を植民地化・占領していた期間に、帝国軍の性奴隷、いわゆる「従軍慰安婦」にすることを目的とした女性を公式に募集した。
日本政府による軍用売春を強制する「従軍慰安婦」制度は、20世紀最大の人身売買事件の一つであり、これには集団レイプ、強制堕胎、恥辱、障害・死亡あるいは自殺に至らしめる性暴力を含んでいる。
日本の学校で使われているいくつかの新しい教科書は、「従軍慰安婦」の悲劇や他の第二次大戦での日本の戦争犯罪について控えめに取り扱おうとしている。
(ここまで)

言うまでもないですが、強制連行だとか誘拐だとかの文言はありません。759号に比べれば、かなり控えめな表現です。
as subjectively as possible (ウヨサイト)のサイトでは、否定論者の加瀬英明氏からマイク・ホンダ氏に送られた抗議文があり、これには「「日本は若い女性を強制して性的奴隷である慰安婦とした事を認めて謝罪すべきである」という趣旨の決議案121号をアメリカ下院外交委員会に提出した。この決議案は昨年12月8日廃案となった、決議案759号と全く同趣旨のものである」とある。

決議案121号と759号って、日本が従軍慰安婦の件で非難されていること以外、全然違うじゃん。
と突っ込みたい気分。

批判する前に、批判対象をよく読む、というのは重要なことですね。